インボイス制度で変わること
2020.01.27はじめに
EXECJAPANのミトです。
今回はインボイス制度についてお話ししたいと思います。
軽減税率導入に伴い令和5年(2023年)10月から採用されるインボイス制度は、まだあまり認知度が高くないようです。
フリーランスの方、中小企業の方なら知っている方も多いと思いますが、少しでもインボイス制度について広められるよう、ブログの記事にすることにしました。
この記事の目次
インボイス制度とは?
インボイス制度とは「適格請求書等保存方式」のことです。
国税庁のホームページから説明を抜粋します。
適格請求書等保存方式の下では、税務署長に申請して登録を受けた課税事業者である「適格請求書発行事業者」が交付する「適格請求書」等の保存が仕入税額控除の要件となります。
適格請求書とは
「売り手が買い手に対して正確な適用税率や消費税額等を伝えるための書類」です。参考:適格請求書等保存方式の導入について|国税庁
https://www.nta.go.jp/publication/pamph/koho/kurashi/html/01_5.htm
企業が仕入れの際に支払う消費税を控除してもらうには、定められた形式の請求書「適格請求書」が2023年10月から必要になります…ということですね。
インボイス制度の運用によって起きる変化
では、インボイス制度が運用されるとどのようなことが起きるのでしょうか。
インボイス制度の問題点をおおまかに説明します。
インボイス制度で「請求書のルール」が変わる
①請求書の様式が変わって『適格請求書』になる
②『適格請求書』を作るには、『適格請求書発行事業者』の登録をしなくてはならない
③登録をするには課税事業者でなくてはならず、免税事業者は登録を行えない
インボイスで「消費税納税免除・負担のルール」が変わる
①課税事業者が免税事業者から仕入れをした場合、この仕入れ額の消費税は免除されない
②免税事業者との取引で発生した消費税は、課税事業者が負担しなくてはならない
フリーランス(個人事業主)や中小企業にとっての問題点
フリーランス(個人事業主)や中小企業など、規模が小さい会社にとってインボイス制度の問題点は「課税事業者にならざるを得なくなり、免除されていた分の税金を支払うことになると、売上に大きく影響を受ける」ということです。
しかも、軽減税率に伴って運用される制度であるにも関わらず、軽減税率の対象(食料品や新聞)と関係のない業種までこのインボイス制度を義務付けられるのです。
インボイス制度で特にダメージを受けると想定されるのはフリーランス(個人事業主)、中小企業です。なぜなら、フリーランス(個人事業主)、中小企業が「免税事業者」である場合が多いからです。
では、免税事業者は課税事業者になればいいのでは?と思われるかもしれませんが、もちろんそこに問題点があります。
まずは免税事業者、課税事業者について説明していきます。
免税事業者と課税事業者
免税事業者ってどういう事業者?
国税庁のホームページから抜粋します。
[平成31年4月1日現在法令等]
1 納税義務の免除
消費税では、その課税期間に係る基準期間における課税売上高が1,000万円以下の事業者は、納税の義務が免除されます(注1)。
参考:国税庁ホームページ No.6501 納税義務の免除|国税庁
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shohi/6501.htm
ざっくりと説明しますと、基準期間とは、その事業年度の前々事業年度のことを指しています。
ですので、2年前に1,000万円の課税売上がなければ免税事業者と判定されます。
ただし、2年前に会社がまだ設立されていなかったとしても、その事業年度の資本金、出資金の金額が1,000万円以上だった場合は免税事業者にはなりません。
上記から、免税事業者と認定されるのはフリーランス(個人事業主)や中小企業であることが多いと言えます。免税事業者の制度は、小規模事業者の納税・事務負担を軽減するための制度なのです。
そして逆に課税売上が1,000万円を超えていたら、フリーランスの方でも「課税事業者」となります。
(細かい部分は省いていますので、より詳しい説明については是非国税庁のホームページを見てみてください!)
参考:国税庁ホームページ No.6501 納税義務の免除|国税庁
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shohi/6501.htm
課税事業者とは?
納税の免除がある免税事業者の対となるのが「課税事業者」です。
課税事業者になると、消費税を国に納める義務が生じます。売上に含まれる消費税から、仕入れに含まれる消費税を除いた分の消費税を納付します。払った消費税が多かった場合は還付を受けられます。(本則課税の場合)
「売上に含まれる消費税」ー「仕入れに含まれる消費税」=納付すべき消費税(マイナスになってしまう場合は還付される)という計算式で納税をしています。
そのほか「簡易課税」という制度もあります。これは、業種によって定められた「みなし仕入れ率」を乗じて納付額を計算する制度です。
免税事業者はどんな税金を免除される?
免税事業者と認定された場合、どういった税金が免除されるのでしょうか?
それは前述の通り、売上に含まれる消費税です。
課税事業者が納税している消費税を、免税事業者は納付する義務を免除されています。その代わり、仕入れの際に発生した消費税の還付は受けられません。
なぜ納税を免除されるかというと、売上が比較的小さく規模も小さい会社のために納税の煩雑さを考慮して消費税を納めなくてもよいとされているからです。
免税事業者であることのデメリット
ではここで、前述のインボイス制度によって起こる変化について戻ってみましょう。
「1.インボイス制度で「請求書のルール」が変わる」の中で「免税事業者は『適格請求書発行事業者』の登録を行えない」ということを書きました。
また、「2.インボイスで「消費税納税免除・負担のルール」が変わる」の中では「課税事業者が免税事業者から仕入れをする場合、仕入れ額の消費税は課税事業者負担になる」ということを書きました。
免税事業者、課税事業者の説明も踏まえ、上記の変化から言えることは「免税事業者である小規模事業者にとって、インボイス制度は大変不利な制度である」ということです。
具体的にはどれくらい売上に差が出るのか
インボイス制度によって、課税事業者、免税事業者は売上にどの程度の影響があるのでしょうか。
試しに計算してみましょう。
まず、課税事業者からみていきましょう。
課税売上高1200万円(消費税120万円)、課税仕入高400万円(消費税40万円)の課税事業者の例で考えてみます。
課税事業者の場合、消費税抜きの売上が課税売上高になります。
課税事業者が課税事業者から仕入れをした場合の納付額
売上1,200万円 売上消費税120万円
仕入400万円 仕入消費税40万円
120万円-40万円=80万円
仕入れに40万円かかったので、売上の消費税と差し引いて納付するのは80万円ということになります。
課税事業者が免税事業者から仕入れをした場合
売上1,200万円 売上消費税120万円
仕入400万円 仕入消費税40万円 ※控除されない
120万円-0万円=120万円
免税事業者からの仕入れの場合、消費税は控除されないため還付はありません。納付する金額は120万円です。
上記のように、課税事業者にとって免税事業者からの仕入れはマイナスになってしまいます。そのため、取引先を考え直す課税事業者も出てくることでしょう。
次に、課税売上高500万円(内消費税45万4,545円)、課税仕入れ高200万円(内消費税18万1,818円)の免税事業者の例で考えてみましょう。
免税事業者の場合、課税売上高は消費税込みの売上になります。
2023年9月までの免税事業者の収入例
売上500万円ー仕入200万円=収入300万円
2023年10月からの免税事業者の収入例
売上454万5,455円(500万円-45万4,545円)ー仕入200万円=収入254万5,455万円
免税事業者は、請求書に消費税分の金額を載せられない(請求できない)ため、従来請求出来ていた消費税が請求できなくなります。
この場合は約46万円の収入減となってしまいます。
課税事業者にとっては免税事業者と取引をする上でデメリットが生じてしまい、
免税事業者は免税事業者のままでいることでデメリットが生じるため、課税事業者になることを検討せざるを得ません。
免税事業者が課税事業者になったら節税になるか?
前述の免税事業者が課税事業者になった場合、収入にどれくらいの影響があるでしょう?
課税事業者になると、【「売上に含まれる消費税」ー「仕入れに含まれる消費税」=納付すべき消費税】という金額を納付する必要があります。こちらに当てはめて考えてみましょう。
売上500万円に含まれる消費税:45万4,545円
仕入れ200万円に含まれる消費税:18万1,818円
45万4,545円-18万1,818円=27万2,727円
納付すべき消費税:約27万円
上記のように、課税事業者になった場合約27万円の納税をする必要が出てきます。免税事業者のままだと約46万円の収入減となりますから、約19万円の差で課税事業者になるほうがお得ということになりますね。
免税事業者が考えなくてはいけないこと
インボイス制度が始まるまでに、免税事業者が選ぶ道は2つあります。
引き続き免税事業者でいる。
免税事業者との取引が多かったり、独自性の強い商材を扱っている場合は、免税事業者のままで問題ないという意見が多いですね。
本則課税または簡易課税の課税事業者になる。
大手企業(課税事業者)との取引が多い方は課税事業者になったほうがよいでしょう。その場合、「本則課税(原則課税)」と「簡易課税」のどちらかを選ぶことができます。
ちなみに、簡易課税制度を選ぶには、基準期間の課税売上高が5,000万円以下でなければなりません。今まで免税事業者だったのであれば、該当する可能性が高いでしょう。
ただし、簡易課税を選択した場合、2年間は変更ができないため注意が必要です。また、簡易課税は益税という側面も抱えているため、廃止されるのでは…という考えを持っている方も多いです。
本則課税と比較してみて、どちらが自分にとって負担が少ないか確認してみてください。
さいごに
今回はインボイス制度についてはお話ししてきました。
免税事業者にとっては自身の収入に大きく関わってきますし、課税事業者にとっては今まで取引をしていた免税事業者と付き合いづらくなってしまうでしょう。
免税事業者、課税事業者のどちらにとっても、慎重に向き合っていかなくてはならない議題です。
制度が運用開始になるまでまだ猶予がありますが、今後どのように議論されていくのか国会での動きを注視していく必要があります。
ご自身がフリーランスの方、中小企業にお勤めでいらっしゃる方、
また、仕事でそういった方とのお付き合いがある方。
インボイス制度に関係があるという人が数多くいるはずです。
皆様も是非インボイス制度について考えてみてください!
参考
国税庁:消費税の仕入税額控除の方式として適格請求書等保存方式が導入されます(PDF)
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/zeimokubetsu/shohi/keigenzeiritsu/pdf/300416.pdf
消費税インボイス 個人事業主・フリーランスの営業はどうなる?軽減税率、インボイス、消費税10%引き上げの問題点|全国商工団体連合会
https://www.zenshoren.or.jp/zeikin/chouzei/180219-08/180219.html
インボイス制度で個人事業主・フリーランスはどうなる?税理士さんに聞いてみた! | フリパラ
https://blog.freelance-jp.org/20191017-5801/